第2部「親は最後まで親でした― 子どもを想う親の遺言」【シリーズ⑯】

「まだ元気だから」

 本当にそうでしょうか
 遺言の話になると、よく聞く言葉があります。

「まだ元気だから」
「もう少し先でいい」
「今は考えたくない」
確かにその気持ちはよく分かります。

 元気な時に、自分が亡くなった後の話を考えるのは、決して楽しいことではありません。
 できれば後回しにしたい。そう思うのが自然です。
 しかし、私は相談の現場で、別の言葉もたくさん聞いてきました。
 それは、「もう少し早く考えておけばよかった」という言葉です。

 人は誰でも年齢を重ねます。そして、判断能力や体力は、少しずつ変化していきます。

 問題は、その変化がいつ訪れるのか、誰にも分からないことです。
 病気や事故はもちろん、認知症も突然始まるわけではありません。
 気付かないうちに進行し、ある日、「遺言を書こうと思ったのに書けなくなった」という状況になることがあります。

 だからといって、慌てる必要はありません。ただ、元気だからこそできることがあるのです。

 自分の考えを整理すること。家族と話をすること。大切な書類を確認すること。
 そして、自分の意思を残すこと。
 これらは、元気な今だからこそできる準備です。
 遺言は、体が弱った人のためだけのものではありません。
 むしろ、元気な人が、自分らしく生きるための準備でもあります。

 「まだ元気だから」ではなく、「元気な今だから」そう考えてみると、少し見方が変わるかもしれません。

次回は、
 遺言の本当の役割について考えてみます。