「全部妻に相続させる」 その一文に込められた想い

 遺言の相談を受けていると、比較的多く見かける内容があります。
 それは、「妻に全財産を相続させる」という遺言です。

 法律の話だけをすると、相続税対策や生活保障など、さまざまな理由が考えられます。
 しかし、実際に遺言を作成する場面では、もっと別の想いを感じることがあります。
 長年連れ添った妻に、安心して暮らしてほしい。
 これからの生活で困らないでほしい。
 自分がいなくなった後も、住み慣れた家で暮らしてほしい。そうした気持ちです。

 あるご主人は、遺言の内容を決めた後、ぽつりとこう言いました。

 「結局、一番苦労をかけたからね」
 その言葉に、長い夫婦の歴史が詰まっているように感じました。
 遺言の条文には、感情は書かれていません。「妻に相続させる」ただそれだけです。
 しかし、その短い一文の背景には、何十年もの人生があります。

 喜びもあったでしょう。苦労もあったでしょう。それらを全て含めて、最後に託す言葉が遺言なのだと思います。

 だから私は、遺言を書くときには、財産だけでなく、その人の想いにも耳を傾けるようにしています。
何を残すか。
 それと同じくらい、なぜそうしたいのかが大切だからです。

次回は、
 実際に遺言を書いた方がよく口にする言葉についてお話しします。